かまぼこの消化性コントロール
2024.11.26
今回はかまぼこの作り方によって消化性をコントロールできる可能性について紹介する。
魚、かまぼこの高い消化性
これまでに大豆や乳タンパク質と比べて魚タンパク質の方が人工胃液に消化されやすいこと1)、畜肉や卵と比べて水産練り製品の消化性が高いこと2)を紹介してきた。消化性が高くなるメカニズムについては魚の筋肉およびタンパク質構造の柔軟性や練り製品特有の網目構造(加熱ゲル)の構造的な特徴に由来すると考えられている3,4)。しかし、一言でかまぼこと言っても原料魚や製造条件の違いにより食感は千差万別である。今回は練り製品の作り方の違いによって消化性にどのような影響が表れるかに注目して行われた実験の結果について紹介したい。
かまぼこの弾力に関わる結合および相互作用
タンパク質の消化には胃液中のペプシン5)や膵液中のトリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ6)など多くのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が関わっている。これらの消化酵素はアミノ酸とアミノ酸をつなぐペプチド結合を切断することでタンパク質を分解して小分子化していくが、酵素ごとに基質特異性7,8)が異なるため、基質となるタンパク質のアミノ酸配列や立体構造の違いにより分解されやすさ、すなわち消化されやすさが変化する。そのため、水産練り製品の場合は原料魚種の違いや加熱条件の違いによって消化性が変化すると推測される。
加熱条件を変えるといわゆる網目構造のでき方(加熱ゲル形成)が変わり、食感(弾力)も変化するわけだが、この網目構造の構築には様々な結合や相互作用が関与している。イオン結合や水素結合、ジスルフィド(S-S)結合、共有結合、分子間力、疎水性相互作用などである。これらの要因が複雑に絡み合って最終的な物性に反映される。今回の研究ではこの中でも特にトランスグルタミナーゼ(TG)が関与する共有結合と消化性の関係について調べた。TGはグルタミン残基とリジン残基や一級アミンの結合(架橋)を触媒する酵素で生体内では血液凝固や皮膚形成に関わるものも知られており、カルシウム濃度依存的にその酵素活性が制御されている9)。一方で、微生物由来のトランスグルタミナーゼ(MTG)の存在も知られており、この酵素はカルシウムイオンを必要とせず架橋反応を触媒する。
かまぼこ作りにおいては、魚肉中に存在する内在性の組織型TGの働きを利用して目的の食感を目指すことが多い。TGの性質は魚種ごとに異なるため、原料魚種に合わせた加熱温度と時間のコントロールが食感形成の重要ポイントである。内在性TGの活性が低い場合はMTGを後から添加する手法もあるが、添加濃度によるコントロールが必要とされる。
共有結合の増強とペプシン消化性
今回の研究では食感の違いによるペプシン消化性に対する影響を調べるため、種々の条件下でタンパク質の重合を無理やり促進したケーシング(実験用かまぼこ)を作り、それらの消化性について比較した。すなわち、内在性の組織型TG活性を促進するために加熱時間を延長した一方で、MTGの添加濃度を増やして共有結合の形成を促進した10)。
タンパク質変性剤溶液(pH 7.0, 0.6 M NaCl, 8 M urea, 0.5 M 2-mercaptethanol)に対する不溶化度を指標として共有結合レベルを調べた結果、加熱時間依存的に共有結合の増加が認められた。MTGを添加した場合は添加濃度依存的に共有結合量が増加した(図1)。
このような条件下で調製されたケーシングのペプシン消化性は、加熱時間依存的またはMTG添加濃度依存的に低下した(図2)。
改めて共有結合レベルと消化性の関係性を確認すると、両者間には高い相関性が認められ、共有結合レベルが高いほど、消化性が低下することが示唆された(図3)。
今回の研究結果から、かまぼこの製造条件をコントロールし、共有結合レベルを変化させることで消化性の良いものと腹持ちのいいものを作り分けられる可能性が見えてきた。即効性のある効果を体感したい時には消化性の高いかまぼこ、持続的な効果を期待したい時には腹持ちの良いかまぼこ、というように目的に応じた商品設計も可能である。現時点では共有結合を促進させすぎるとしなやかさが失われてただ硬いかまぼこになってしまうため、食感については改善の余地が残されているが、食感、外観、美味しさに加わる付加価値として消化性という観点が加わると面白いのではないだろうか。
<参考資料>
1)お魚たんぱく健康研究会HP.重点研究テーマ 魚の消化性のすばらしさ.魚タンパク質の消化性の高さ.
2)お魚たんぱく健康研究会HP.重点研究テーマ 魚の消化性のすばらしさ.練り製品は消化性に優れる.
3)渡部終五.魚肉ミオシンの消化性と機能性発揮の機構.FoodStyle21 27.7 (2023): 34-37.
4)お魚たんぱく健康研究会HP.お魚たんぱく健康だより お魚トピックス.魚肉ミオシンの消化性と機能性発揮の機構.
5)お魚たんぱく健康研究会HP.重点研究テーマ 魚の消化性のすばらしさ.〈消化吸収の基礎〉胃液中の消化酵素.
6)お魚たんぱく健康研究会HP.重点研究テーマ 魚の消化性のすばらしさ.〈消化吸収の基礎〉膵液中の消化酵素.
7)谷川実.酵素反応の基礎—名前はよく聞くが, よくわからない 「酵素」 を知るために—.化学と教育, 66 (12), 584-587 (2018).
https://doi.org/10.20665/kakyoshi.66.12_584
8)森原和之.プロテアーゼの種類と基質特異性.日本釀造協會雜誌, 70 (9), 632-636 (1975).
https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.70.632
9)伊倉宏司, 佐々木隆造.組織型トランスグルタミナーゼの構造と生理機能. 化学と生物, 29 (2), 81-89 (1991).
https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.29.81
10)Ueki, N., Wan, J., and Watabe, S. The pepsin digestibility of thermal gel products made from white croaker (Pennahia argentata) muscle in associating with myosin polymerization levels. Journal of food science, 79 (12), C2427-C2433 (2014).
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