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お魚たんぱく健康だより 魚肉ミオシンの消化性と機能性発揮の機構

2023.08.24

FoodStyle21 2023年7月号「海の幸にみる健康への可能性」特集に、魚肉タンパク質やペプチドがなぜ容易に機能性を発揮するかについての記事が掲載されました1)。ここではその一部、特に消化性と機能性ぺプチドの局在性について概要を紹介します。

背景

●四方が海に囲まれているわが国では古来より水産物が多く消費されてきた

●水産物は動物性タンパク質の主要な供給源として、栄養学的にも重要な役割を果たしてきた

●早ければ2030年代にも、遅くとも2050年にはタンパク質不足が予測されている(タンパク質危機)。

●魚介肉には人の体の中で合成できない必須アミノ酸が国際的に標準とされる数値以上含まれており、栄養的には畜肉のものと遜色ない。

●魚介肉のタンパク質およびその分解物のペプチドには種々の健康機能性が認められてきている。

●なぜ魚介類のタンパク質が容易に機能性を発揮するのか、その仕組みはよくわかっていない。

要因のひとつとして魚介肉タンパク質の消化され易さにあると推測される。

魚介類筋肉のタンパク質組成とミオシン

魚類の可食部の筋肉(骨格筋)はタンパク質を約20%含み、タンパク質、糖質、脂質の三大栄養素の中では最も多くを占めている。魚類の骨格筋は速筋と遅筋(魚類では、それぞれ普通肉および血合肉と呼ばれている)に組織的に明瞭に分かれているが、血合肉はマグロやカツオなどの持続的遊泳を行う魚類に多く含まれている。

筋肉タンパク質は化学的性質から水溶性タンパク質(筋形質タンパク質)、塩溶性タンパク質(筋原線維タンパク質)、不溶性タンパク質(筋基質タンパク質)に分類される。白身魚の普通肉を例にとると、筋形質タンパク質および筋原線維タンパク質はそれぞれ約30%および70%となり、筋基質タンパク質は数%に過ぎない2)

筋原線維タンパク質の中ではミオシンが約60%を占め、次いでアクチンが約20%で、その他は筋運動を調節するタンパク質が占める3)

魚肉を構成する主要タンパク質であるミオシンの性状を解析することが消化性や機能性発現機構の解明につながると考えられる。

蒲鉾の消化性

魚肉から製造した蒲鉾の消化性は大豆などの植物や畜肉に比べて明らかに高い(図1)4)。蒲鉾はミオシンが加熱変性して重合し、網目構造を形成することで水和化し、この中に多量の水を抱き込むことでしなやかな弾力のある独特の食感をもたらす。魚肉が貯蔵中に劣化してミオシンが変性していると、この独特なしなやかな弾力は現れない。変性したミオシンは加熱により無秩序な凝集体となってしまうことが原因であろう。すなわち、未変性のミオシンが人為的に設定した加熱条件で規則正しく変性することが、蒲鉾のような独特の弾力性のある食感を出すためには重要で、高い消化性にも影響していると考えられる。

図1.タンパク質食材の人工胃液に対する消化性.
各食材を同じサイズに切り出して人工胃液(ペプシン溶液)で消化し、その消化速度を消
化性の指標とした.値は平均+標準偏差(n= 3)で示し、異なるアルファベット間で有意
差あり(p < 0.05).文献4)「魚肉タンパク質と魚肉ペプチドでスポーツに適した体に」アクアネット 25 (2022): 27-32.の図を改変.

加熱した魚肉の消化性

赤身魚のマグロの加熱に伴う硬さの変化を普通肉と血合肉で比較すると、筋線維が太く、水溶性タンパク質の少ない普通肉は明らかに柔らかい5)。低水温域に生息する白身魚のタラ類の普通肉では水溶性タンパク質が赤身魚の普通肉よりさらに少ない6)。したがって、スケトウダラ普通肉は加熱してもマグロの普通肉を加熱したものより柔らかく、ミオシンの構造も柔軟であることも併せて、プロテアーゼに消化されやすいのではないかと思われる。スケトウダラ肉を摂取すると速筋タンパク質を増加させることが知られているが7)、これもスケトウダラ肉のタンパク質が体内で消化されやすく、その消化物が機能しているためではなかろうか。

機能性ペプチドのミオシン分子上の局在性

血圧上昇の抑制作用があるとして機能性食品の原料となっているイワシのエキス中の3種類の機能性ジペプチド8)をシログチのミオシン9)の一次構造上にマッピングしてみると、そのほとんどが球状部分(サブフラグメント-1、S1)に分布する(図2、未発表データ)。この事実はミオシンでもαヘリックスのコイルドコイルの規則正しい構造をもつ線維状のロッドに比べ、ランダム状の構造をもつS1が相対的に不安定でプロテアーゼに消化されやすく、このS1から生ずるペプチドが機能性を発揮することを示唆する。

図2.イワシ機能性ペプチド(VY, KW, MFおよびAKK)8,10)のシログチ・ミオシン9)の一次構造上へのマッピング(渡部、未発表データ).S1: subfragmen-1, S2: subfragment-2, LMM: light meromyosin.文献1)「魚肉ミオシンの消化性と機能性発揮の機構」FoodStyle21 27.7 (2023): 34-37.の図を改変.

一方、同じくイワシから得られているトリペプチド10)はロッドの部分のみにみられた。図示はしないが、このような機能性ジペプチドおよびトリペプチドの分布は、スケトウダラ、マエソ、コイの10および30ºCミオシンでもほぼ同じで、驚くことに哺乳類のウサギ速筋ミオシンでも同じ傾向を示した(未発表データ)。なお、魚肉水溶性タンパク質の主要成分の一つであるグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素1)にも先述の3種類のジペプチドが各1か所ずつ存在した(渡部、未発表データ)。

<参考資料>

1)渡部終五.魚肉ミオシンの消化性と機能性発揮の機構.FoodStyle21 27.7 (2023): 34-37.

https://www.foodchemicalnews.co.jp/item/cartfs21/7131.html


2)渡部終五編:水産利用化学の基礎. 恒星社厚生閣 (2010).

http://www.kouseisha.com/book/b212111.html


3)Potter, J. D. et al. The content of troponin, tropomyosin, actin, and myosin in rabbit skeletal muscle myofibrils. Archives of biochemistry and biophysics 162.2 (1974): 436-441.

https://doi.org/10.1016/0003-9861(74)90202-1


4)植木暢彦.魚肉タンパク質と魚肉ペプチドでスポーツに適した体に.アクアネット 25 (2022): 27-32.

https://www.sobunsha.com/MOKUJI/MOKUJIFILES/22-06.html


5)Kanoh, S. et al. Heat-induced textural and histological changes of ordinary and dark muscles of yellowfin tuna. Journal of Food Science 53.3 (1988): 673-678.

https://doi.org/10.1111/j.1365-2621.1988.tb08929.x


6)Hashimoto, K. et al. Muscle protein composition of sardine and mackerel. Nippon Suisan Gakkaishi 45.11 (1979): 1435-1441.

https://doi.org/10.2331/suisan.45.1435


7) Mizushige, T. et al. Fast-twitch muscle hypertrophy partly induces lipid accumulation inhibition with Alaska pollack protein intake in rats. Biomedical Research 31.6 (2010): 347-352.

https://doi.org/10.2220/biomedres.31.347


8)関英治ら. Val-Tyr は消化管プロテアーゼ耐性なイワシ由来の ACE 阻害ペプチドである. 日本農芸化学会誌 69.8 (1995): 1013-1020.

https://doi.org/10.1271/nogeikagaku1924.69.1013


9)Yoon, S. H. et al. cDNA cloning and characterization of the complete primary structure for myosin heavy chain of white croaker fast skeletal muscle. Fish. Sci. 66 (2000): 1158-1162.

https://doi.org/10.1046/j.1444-2906.2000.00184.x


10)松井利郎ら.食品タンパク質由来機能性ペプチドによる血圧降下作用 イワシペプチド (Val-Tyr) による降圧食品の開発を中心として. 日本栄養・食糧学会誌 53.2 (2000): 77-85.

https://doi.org/10.4327/jsnfs.53.77

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