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〈消化吸収の基礎〉胃液中の消化酵素

2024.04.02

ここではタンパク質の消化に大切な胃液中の消化酵素ペプシンについて解説する。

消化酵素 ペプシン

咀嚼により細かく砕かれて表面積が増大した食塊が胃に到達すると、胃液の強い酸性によりタンパク質が変性し、タンパク質分解酵素であるペプシンの働きにより、よりサイズの小さいタンパク質やペプチドへと低分子化されることは別のページで解説した。

本ページでは胃で重要な働きをする消化酵素ペプシンの性質についてもう少し詳しく述べる。ペプシンは最初からそのままの形で合成されるわけではなく、まずはペプシノーゲンという前駆体として分泌される(図1)。このペプシノーゲンが胃酸の低いpH環境下に曝されると活性中心をふさいでいた蓋が自己消化により分解されてなくなり、活性型のペプシンに変化する。このようにタンパク質分解活性をもたない前駆体の状態(不活性型)で分泌されることは細胞を保護するために非常に理にかなったシステムである。仮に活性型で細胞の中で合成されたとすると、ペプシンが合成された瞬間から周辺のタンパク質をどんどん分解してしまい、細胞へ大きなダメージを与える姿が想像できるだろう。あくまでも不活性型で分泌され、ペプシンが働くべき場所にたどり着いてから活性化されることが大切である。

図1.胃でのタンパク質消化の模式図.

胃液のpHが低い理由

年を重ねると消化機能の衰えを感じる人もいるのではないだろうか。これには様々な因子が関与していると考えられるが、タンパク質の消化に限って言えば胃のpH変化も大きな要因の一つと考えられる。内視鏡を用いて胃のpHを測定した研究では、年齢が高くなるほどpHが高くなることが明らかにされている(図2)1,2)。この結果は、加齢とともに胃内環境がペプシンの至適pHから遠ざかっていくことを示しており、タンパク質消化効率の低下が懸念される。

図2.年齢と胃のpH.

若い頃に摂取していたタンパク質10 gと長い人生を歩んできた後に摂取するタンパク質10 gでは、実は意味が異なる可能性が高い。同じ10 gでも効率よく消化、吸収されて100%活用される場合と、一部は消化できずにそのまま体外に排出されてしまう場合があるということである。タンパク質は生命活動維持に重要な栄養素であるため、摂取量や利用効率が低下すると体に不調をきたすこともある。これを防ぐためには、タンパク質の摂取量を増やすことと消化性が高いタンパク質を摂取することが考えられるが、当研究会としてはいずれの条件も満たす魚肉のタンパク質を推奨したい。畜肉で大量のタンパク質を摂取しようとすると、比較的大量の脂質も同時に摂取してしまうため、高タンパク質低脂質な魚肉の方がタンパク質摂取には効率が良い3,4)。魚肉からさらに余分な脂質を除去して作られる水産練り製品も効率が良いと考えられる。さらに、魚のタンパク質は大豆や乳タンパク質よりもペプシンで消化されやすいことも分かっており5)、胃のpHが高まりタンパク質分解活性が落ちてきた時にこそ相性が良いのではないだろうか。

タンパク質摂取の重要性が認識され、その量が注目されてきたが、最近では量に加えて質の概念も重要視されるようになってきた。まずは消化性という質の違いについても知ってもらえれば幸いである。

<参考資料>

1)黒坂判造ら.経内視鏡的測定による加齢に伴う胃粘膜 pH の変化.日本消化器内視鏡学会雑誌 34.1 (1992): 81-88.

https://doi.org/10.11280/gee1973b.34.81


2)松田裕子ら.内視鏡検査時における胃液 pH 値測定の意義 I.日本消化器内視鏡学会雑誌 27.11 (1985): 2287-2292.

https://doi.org/10.11280/gee1973b.27.2287


3) お魚たんぱく健康だより お魚トピックス.高タンパク質低脂質な魚肉は様々な食感を楽しめる.お魚たんぱく健康研究会HP.


4) 植木暢彦.魚肉タンパク質と魚肉ペプチドでスポーツに適した体に.アクアネット 25, 27-32, 2022.

https://www.sobunsha.com/MOKUJI/MOKUJIFILES/22-06.html


5) 重点研究テーマ 魚の消化性のすばらしさ.魚タンパク質の消化性の高さ.お魚たんぱく健康研究会HP.

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