お魚たんぱく健康だより 魚卵にはプリン体が多いのか? 痛風が気になる方へ
2024.01.09
お正月に食べる機会の多いカズノコやイクラ。尿酸値が高く、食品中のプリン体の量が気になる人は魚卵製品への抵抗があるのではないでしょうか。今回は魚卵に含まれるプリン体についてまとめ、尿酸値低下作用のあるペプチドについても紹介します。
痛風
風が吹いただけでも激しい痛みが出ることから名付けられた「痛風」。かつて患者数が少なかった時代は飲酒を好み、美味しいものをたくさん食べる人に症状が多かったことから「贅沢病」とも呼ばれていましたが、いまや患者数は100万人を超え、その発症メカニズムも解明されてきており、一般的な疾病となりつつあります。血液中の尿酸濃度が高い「高尿酸血症」の状態が続き、一定の濃度を超えて血液中に尿酸が溶けきれなくなると結晶化し、それを異物とみなした白血球が集まることで炎症が起こり激痛が走ります1)。
高尿酸血症の要因
尿酸値が高まる要因は主に二つで、尿酸が過剰に産生されることと、尿酸の排出がうまくいかなくなることです。遺伝的な要因以外の環境的な要因として、食べ過ぎ、飲み過ぎ、肥満などが知られています。また、女性ホルモンの一つであるエストロゲンには尿酸排出を促す働きがあるため、女性よりも男性の方が高尿酸血症になりやすいという特徴もあります。
プリン体の生成
尿酸は肝臓でプリン体が分解されて生じるため、プリン体の生成を抑制することが高尿酸血症の予防につながるとも言えます。プリン骨格という構造をもつものの総称がプリン体で、遺伝情報物質であるDNAやRNAなどの核酸、エネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)などが当てはまります。体内でのプリン体生成にはこれらの物質が大きく関わっています。
細胞の新陳代謝で古い細胞が破壊される時や、強度の酸化ストレスなどにより細胞が破壊されると核が放出され、プリン体が生じます。また、激しい無酸素運動など過度にエネルギー消費が必要な状態では、ATPが大量に分解され、ADPからATPへの再合成とのバランスが崩れて、結果的にプリン体が生じてしまいます(図1)。プリン体はこのように体内で生じるものが7-8割、食事から摂取するものが2-3割と言われており、食べ過ぎ、飲み過ぎを避け、過剰なストレスのかからない生活を送ることが痛風予防には効果的だと言えます。
食品に含まれるプリン体
食事からの摂取は体内でのプリン体生成よりも影響が少ないとはいえ、痛風発症の要因の一つではあるため、食品中のプリン体量を把握しておくことも重要です。「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」によると「1日400 mgを目安にしたプリン体の摂取制限」が示されており、100 g中のプリン体の含有量はスジコ(イクラ)で15.7、カズノコで21.9 mgと極めて少ない部類に属し、タラコで120.7、明太子で159.3 mgという値です2)。豚レバー(284.8 mg/100 g)やカツオ(211.4 mg/100 g)、イサキ白子(305.5 mg/100 g)など比較的含有量の高いものもありますが、100 g換算よりも実際に食べる量で考えることも大切です。魚にもそれなりの量が含まれています(イサキ:149.3、マダイ:128.9、サワラ:139.3 mg/100 g)が、プリン体は水溶性であるため、魚肉を大量の水で洗う水晒し工程がある水産練り製品ではプリン体含有量が少なくなる(板かまぼこ:26.4、笹かまぼこ:47.8、焼きちくわ:47.7 mg/100 g)ことが分かっています。尿酸値が気になる方は練り製品という選択肢も良いのではないでしょうか。
コレステロールに関しては、鶏卵(370 mg/100 g)や牛肉肩ロース(88 mg/100 g)と比べるとイクラで480 mg/100 g、たらこで350 mg/100 g3)と少し多いように感じます。しかし、これらの値も100 g換算であるため、実際に食べる量を想像して判断することが大切です。卵を2個(約120 g)食べるよりも100 gの瓶詰めのイクラをすべて食べることの方が大変という考え方もあるのではないでしょうか。魚卵にはEPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸も豊富に含まれているため、適度に食べることは体にとっても良いことだと考えられます。
尿酸値低下作用を持つペプチド
ストレスを溜めずに規則正しい生活とバランスの良い食生活を心がけることは大前提として、尿酸値を低減させる物質も知られています。マグロやカツオなど赤身の回遊魚に多く含まれるイミダゾールペプチドであるアンセリンもその一つ。抗疲労効果があることで知られるアンセリンですが、比較的尿酸値の高い(血清尿酸値6.5-8.0 mg/dL)成人男性48名に4週間アンセリンを含む食品を摂取させた臨床試験で、摂取4週間後および摂取終了2週間後にプラセボ摂取群と比べて有意に尿酸値が低下することが明らかにされました4)。一方で、魚肉すり身由来の魚肉ペプチドにも尿酸値低下作用があることが分かっています。一般健常者26名(男性13名、女性13名)に対して行った魚肉ペプチド摂取試験では、摂取後4および8週間後に摂取前と比べて有意に尿酸値が低下することが分かりました(図2)。プリン体や尿酸値が気になる方は、これら機能性ペプチドのサプリメントという視点も付け加えると良いのではないでしょうか。
<参考資料>
1)総合南東北病院.痛風を招いてしまう『高尿酸血症』.
https://www.minamitohoku.or.jp/up/news/minamitouhoku/topnews/200906/tsuhu.htm
2)公益財団法人 痛風・尿酸財団HP.食品・飲料中のプリン体含有量.
https://www.tufu.or.jp/gout/gout4/447
3)日本食品標準成分表2020年版(八訂)
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
4)上野友哉, 山田潤.海洋性アンセリンの健康機能.日本食生活学会誌 25.3 (2014): 157-160.
https://doi.org/10.2740/jisdh.25.157
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