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お魚たんぱく健康だより なぜ猫はマグロが好きなのか

2023.11.14

猫は魚を好んで食べるというイメージは定着していると思いますが、それはなぜなのでしょうか。今回は猫がマグロを好むメカニズムについて紹介します。

猫の味覚

猫が魚を好むことはよく知られており、実際に天然魚の6%以上がキャットフードに使われているそうです1)。どのようなエサを好むのかは猫の味覚に依存するところが大きいと考えられますが、このほど猫の味蕾にうま味を感知するのに必要な受容体があることが報告されました2)。うま味とは甘味、塩味、苦味、酸味に並ぶ5つの基本味の一つで、食物の好みや食欲に関わる重要なものです。実は猫の舌には甘味を感知する受容体がないため、甘いものを好んで選ぶという人間のような習性はなく、嗜好性に対する他の基本味の重要性が示唆されています。

猫のうま味受容体

人間や他の多くの動物では、TAS1R1とTAS1R3という受容体でうま味を感知することが知られており、猫の場合はこれまでにTas1r3遺伝子の発現は確認されていましたが、Tas1r1については不明でした。それが今回McGraneらの研究により、猫の味蕾にTas1r1とTas1r3両方の遺伝子が発現していることが確認されました1,2)。これらの受容体のアミノ酸配列を人間のものと比較したところ、人間がうま味として感知するグルタミン酸およびアスパラギン酸との結合に重要な部位で変異が生じていることが明らかになりました。この結果から、猫はうま味を感じないのではないか、という疑問も生じたそうです。

猫の嗜好性

この疑問を解消するために様々なアミノ酸やヌクレオチドに曝露した実験では、細胞がうま味に反応することが明らかになりました。人間の場合はアミノ酸が先に受容体に結合し、イノシン酸やグアニル酸などのヌクレオチドがうま味を増幅させることが知られていますが、猫の場合はその逆で、ヌクレオチドが受容体を活性化させた後にアミノ酸がさらにそれを増強させるようです。

図1.

実際の猫を使った実験では、アミノ酸とヌクレオチドを様々なパターンで混合した水に対する反応が確認されています。その結果、イノシン酸とヒスチジンの組み合わせが最も好まれることが分かりました(図1)。猫のうま味受容体にイノシン酸が結合し、ヒスチジンがさらにうま味を増強させると考えられます。ヒスチジンはマグロやカツオなど回遊性の赤身魚に豊富に含まれており、なぜ猫がそれらの魚を好むのか一つのメカニズムが解明されたと言えます。このメカニズムを理解することは、猫の食いつきを良くしたり、成長を促進したりするためのペットフード開発にも役立つかもしれません。

<参考資料>

1)Grimm, D. Why do cats love tuna so much?. Science (New York, NY) 381.6661 (2023): 935-935.

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk5725



2)McGrane, S. J. et al., Umami taste perception and preferences of the domestic cat (Felis catus), an obligate carnivore. Chemical Senses 48 (2023).

https://doi.org/10.1093/chemse/bjad026

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