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お魚たんぱく健康だより 血圧上昇のメカニズムとACE阻害ペプチド

2022.12.23

魚肉タンパク質やペプチド関連の論文を読んでいると降圧作用についてのものをよく見かけます。高血圧症は世界的な問題とされ、日本でも多くの人が血圧に不安を抱えており、改善を望んでいると考えられます。ここでは血圧が上昇するメカニズムと、それに対して降圧ペプチドがどのように作用して血圧改善作用を示すのかを解説します。

日本人の血圧

日本人の高血圧有病者数は男性2,300万人、女性2,000万人、計4,300万人とも言われています1)。年代別では年齢を重ねるほど高血圧の人が増え60歳代で最も多く、それ以上だと少し人数が減ります。これは加齢とともに血管壁内にLDLコレステロールなどが溜まって血管が細くなったり、血管の柔軟性が失われたりすることで血圧が高くなると考えられています。一方で、高血圧に対する意識も高まり、治療法も確立されてきたことから、日本人の平均的な血圧は年々低下傾向が認められています2)

血圧のメカニズム

血圧を上昇させる要因にはアルコール摂取やナトリウム摂取、ストレスや肥満など様々なものがありますが、ここではレニン・アンジオテンシン系およびカリクレイン・キニン系が関与するメカニズムについて解説します。図1に示すようにレニン・アンジオテンシン系では、肝臓から分泌されたアンジオテンシノーゲンが腎臓から分泌されるレニンというタンパク質分解酵素により分解され、アンジオテンシンIというホルモンが生成されます。続いてアンジオテンシンI変換酵素(ACE)により血管収縮作用を持つアンジオテンシンIIが生成されることで血圧が上昇します。一方、カリクレイン・キニン系では、同じく肝臓から分泌されたキニノーゲンがカリクレインという分解酵素によって切断され、血管拡張作用を持つブラジキニンが生成されることで血圧が低下します。通常はこれら二つの系のバランスがとられることで血圧がコントロールされています。

図1.血圧上昇、低下のメカニズム.

しかし、ACEは血圧降下作用を持つブラジキニンを不活性物質に変換する作用も持つため、何らかのきっかけでACEの働きが強くなると、昇圧の経路が強く働くことに加えて、降圧の経路が正常に働かなくなり、血圧が大きく上昇してしまいます(図2)。

図2.アンジオテンシンI変換酵素(ACE)による血圧上昇作用.

ACE阻害ペプチド

高血圧症の薬としてACE阻害薬が用いられることもありますが、これはACEの働きを抑制することで昇圧系の動きを抑え、降圧系の動きを活発にすることで血圧を下げるものです(図3)。

図3.魚肉タンパク質摂取によるACE阻害ぺプチドの生成と血圧上昇抑制作用.

この薬と同じような働きをするものがACE阻害ペプチドと言われるものです。食事で摂取されたタンパク質が体内の消化酵素により分解され、ペプチドが生成されます。魚に限らず様々なタンパク質由来のACE阻害ペプチドがこれまでに発見されていますが、魚肉タンパク質由来の加水分解物やペプチドが高いACE阻害活性を持つことがいくつもの論文で報告されています3,4)。魚肉タンパク質は畜肉や卵などのタンパク質と比べて消化性が高いことも知られており5)、タンパク質からACE阻害ペプチドが生成されるスピードが速いことも期待されます。血圧が気になる人は魚を取り入れた食生活の改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

<参考資料>
1)NIPPON DATA.本邦の高血圧有病者推計数 (性・年齢階級別) (NIPPON DATA2010および2010年国勢調査人口より推計).
https://shiga-publichealth.jp/nippon-data/material/6/

2)NIPPON DATA.収縮期血圧平均値の年次推移(1961年~2010年) 拡張期血圧平均値の年次推移(1961年~2010年).
https://shiga-publichealth.jp/nippon-data/material/4/

3)Ucak, I., Afreen, M., Montesano, D., Carrillo, C., Tomasevic, I., Simal-Gandara, J., & Barba, F. J. Marine Drugs 19.2 (2021): 71.
https://doi.org/10.3390/md19020071

4)Yathisha U.G., Ishani Bhat, Iddya Karunasagar, Mamatha B.S. Critical reviews in food science and nutrition 59.15 (2019): 2363-2374.
https://doi.org/10.1080/10408398.2018.1452182

5)植木暢彦.魚肉タンパク質と魚肉ペプチドでスポーツに適した体に.アクアネット 25, (2022): 27-32.

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