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お魚たんぱく健康だより カロリーは同じでも「質」の異なるタンパク質・脂質の食事が体に与える影響は?

2022.12.15

肉食と魚食に違い、さらにはタンパク質と脂質摂取の影響の違いについてのいくつかの実験を通して、改めて「魚食は体にいい」ことが証明された事例です。世界的に栄養障害の二重負荷(Double burden of malnutrition)が問題とされている中、魚食は栄養過剰、栄養不良両方への効果が期待できます。

はじめに

国民・栄養調査(2018年)の統計1)によれば、成人男女の約35 %が予備軍も併せて、生活習慣病(メタボリックシンドローム)と言われています。特に、50歳以上の男性ではその傾向がより顕著で、予備軍も併せると約半数以上が該当します。
健康診断の結果、生活習慣病やその予備群と判定されると、その後食事指導が実施されます。その際、「規則正しい生活をしましょう。」「適度な運動をしましょう。」「バランスの良い食事をしましょう。」という、「食事バランスガイド」2)のコマの周りをヒトが走る絵(図1)とともに説明されることが良くあります。

図1 食事バランスガイド.
厚生労働省・農林水産省決定.

説明を受けると、なんとなく”バランスの良い食事”をその場では理解できるものの、いざ日々の中で実践することは難しいものです。実際の食生活を考えてみると、「昨日は肉を食べたな」、「最近魚や野菜をとっていないな」、という程度の認識であることが多いと思います。そこで、高カロリーの食事において、タンパク源や脂質を肉食主体あるいは魚食主体にした場合、健康に与える影響を検証しました。

図2 今日は、肉と魚どっちを食べる?

肉食と魚食の違い 3)

1 .同じカロリーでの肉食と魚食の違い(検証-1)

検証では、脂質と糖質をリッチにした高カロリー食(エネルギー比 タンパク質15 %、脂質52 %、炭水化物 33 %、515 kcal/100 g)の基本飼料(基本食) (タンパク源:カゼイン) (C)をベースとして、タンパク質のすべてと脂質の一部(1/3)を畜肉または魚肉由来に置き換えて、これと同カロリーの高カロリー畜肉配合飼料(畜肉食)(牛肉由来)(M)、高カロリー魚食配合飼料(魚食)(鮭肉由来)(F)を調製しました。また、標準カロリー飼料(標準食: 388 kcal/ 100 g)摂取群(A)も比較対照として試験に加えました。これら4種の餌のグループを設け、マウス(雄性、C57BL/6J: 8週令)に12週間自由摂取させました。
その結果、摂餌量には差がなく、言い換えれば摂取したカロリー差がないにもかかわらず、体重の増加は、畜肉食群(M)>>基本食群(C)=魚食群(F)>>標準食群(A)となりました(図3)。

図3 体重の推移(検証-1)

試験終了後、肝臓を調べると、基本食群(C)と畜肉食群(M)の肝臓は、著しい脂肪肝になった一方、魚食群(F)は、標準食群(A)と同じような正常な肝臓でした(図4)。

図4 肝臓の様子(検証-1)

また、血液検査の結果(図5)では、肝機能の指標(ALT)や総コレステロール、血糖値は、脂肪肝の状況と同様に魚食群(M)は、標準食群(A)と同じような値を示し、期待通り「魚食は体にいい」ということを示すことはできました。

図5 血液検査の結果(検証-1)
図5 血液検査の結果(検証-1)

ところで、この効果は何によるものか、という議論になりました。DHAやEPAの魚油が脂質代謝や糖代謝を改善する報告が多くされていることから、当然その効果によるものであろうという意見が多く上がりました。ただし、上記の実験ではタンパク質と脂質の2成分を同時に変えて現象を観察しているため、畜肉と魚肉由来のタンパク質と脂質をクロスさせて、それぞれの影響を見る検証を行いました。

2 .タンパク質と脂質? どちらの影響? (検証-2)

タンパク質と脂質の影響を見るために、先の検証で調製した高カロリー畜肉食(M)と高カロリー魚食(F)をアレンジして、タンパク質と脂質をクロスさせ、組み合わせたものを調製しました。(表1)

すなわち、高カロリー畜肉タンパク-畜肉油(牛脂)(MM)(上記実験(M)に相当)、高カロリー畜肉タンパク-魚油(MF)、高カロリー魚肉タンパク-畜肉油(MF)、高カロリー魚肉タンパク-魚油(FF)(上記実験(F)に相当)の4つのパターンを作り、同様に12週間自由摂取させました。

表1 畜肉・魚肉由来のタンパク質×脂質(検証-2)

その結果、体重の推移(図6)をみますと、有意な差はないものの、脂質よりもタンパク質の方が増加に与える傾向を認めました。

図6 体重の推移(検証-2)

また、血中総コレステロールや血糖値(図7)は、タンパク質を揃えて脂質の違いをみる(MM vs MF, FM vs FF)と、既報の通り、魚油の影響が大きいことを確認しました。その一方で、脂質を揃えてタンパク質の違いに着目する(MM vs FM, MF vs FF)と、魚肉タンパクの摂取がそれらの値の改善に寄与していることもわかりました。

図7 血液検査の結果(検証-2)

すなわち、魚食の良さは、魚油だけではなく、魚肉タンパクにもその効果が複合的に影響しているものと言えます。近年、魚肉タンパク質あるいはその消化物であるペプチドが脂質・糖代謝をはじめとして有用な生理機能についての報告4)があります。当社では、代謝を包括的に捉えるメタボロミクス等を用いて、その有用性のメカニズムの解明に取り組んでいます。

魚肉タンパク、魚食に健康価値を!

現在、わが国だけではなく、世界的に栄養障害の二重負荷(Double burden of malnutrition)が大きな問題として提起されています。これは、栄養過剰が懸念されている人(肥満や生活習慣病と、その予備群)と、栄養不良が心配される人(やせ、拒食、低栄養など)の両方が、同じ国に混在していることを指しており、東京栄養サミット20215)でも大きく取り上げられました。

また、同じ人の中でも、メタボリックシンドロームからフレイルに移行していく方、もしくは両方を抱えている状況もあります。その解決には、まさに良質なタンパク質魚食が大いに役立つことが期待されます。世界においしい幸せを届けるためにも、安定した水産資源の提供はもちろん、魚食を起点とした健康価値創造に資する研究を引き続き推進してまいります。

<参考資料>

(1) e-Stat.統計でみる日本.国民健康・栄養調査.
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003223783

(2) 「食事バランスガイド」で実践 毎日の食生活チェックブック.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/pdf/eiyou-syokuji8.pdf

(3) 第67回日本栄養・食糧学会大会(2O-10a)(平成25年 名古屋)

(4) Matthew J Lees et al., Nutrients, 2020 ,12 (8),2434.

(5) 農林水産省.東京栄養サミット2021.
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seisaku/n4g2021.html

マルハニチロ株式会社中央研究所

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