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お魚たんぱく健康だより 魚の副産物由来加水分解物には大腸炎を抑制する効果が期待できる

2023.06.06

魚の加工副産物中に含まれる素材が注目されるようになって久しく、様々な健康機能性が見出されてきた。これまでは魚油の機能性を中心とした議論が多かったが、ここでは、フィレ加工時に出る未利用副産物由来の加水分解物が大腸炎モデルマウスに対して抗炎症作用示した結果を紹介する。

背景および目的

栄養は炎症性腸疾患の発症や抑制に密接に関係しており、その多くは栄養素の複雑な免疫調節作用に起因している。これまでの研究から、魚を含む食事は健康を増進し、炎症性疾患を抑制することが示唆されている。魚由来の栄養素の健康増進特性のほとんどは魚油に起因しているという考察される一方で、魚タンパク質の潜在的な健康増進特性は調査されていない。魚の副産物には未利用のタンパク質が大量に含まれており、抗炎症作用が期待されるほか、生理活性ペプチドや遊離アミノ酸によるさらなる効果も期待される。そこで本研究では、サバとサケの頭部と背骨(中骨)、およびカレイの皮膚コラーゲンをベースにした魚タンパク質加水分解物を調製し、大腸炎モデルマウスに対する抗炎症効果について調べた。

方法

加水分解物の調製:

・サケおよびサバの頭部および中骨はそれぞれフィレ加工会社から加工副産物として入手した

・プロテアーゼFoodPro PNL(EC 3.4.24.28, DuPont, Wilmington, DE, USA)を用いて加水分解

・加水分解スラリーから三相分離遠心、固液分離により抽出した液相をスプレードライで粉末にした

・それぞれのサンプルの組成は表1に示す

大腸炎モデルマウスの飼育条件:

 ・6〜8週齢の雌C57BL/6マウス6匹に、通常の穀物原料飼料(chow-diet, 4RF21, Mucedola, Settimo Milanese, MI, Italy)に5% (w/w)の魚加工副産物由来のタンパク質加水分解物を加えたものを実験開始の1週間前から与えた(対照には精製大豆タンパク質を給餌)

 ・その後、実験試料に加えて3% (w/v)のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲料水に投与して5日間処理し、大腸炎を誘発させた

 ・最終3日間の回復期はDSS投与を中止し、実験試料のみとした

 ・実験期間中の各パラメーターを測定した

結果

・対照群と比べてDSSを投与したマウスの大腸は炎症と組織損傷により著しく収縮していたが、サケ頭部加水分解物群では、大腸の収縮が有意に抑制された。

・サケ頭部加水分解物+コラーゲンおよびサバ頭部加水分解物、コラーゲン群では広範囲の炎症が組織損傷を引き起こした。

・大腸の長さを測定した結果、サケ頭部加水分解物群ではDSS誘発の組織損傷の減少が認められ、サケ中骨加水分解物およびサケ頭部加水分解物+コラーゲン群では結腸の組織学的特徴が有意に改善された。

 ・サケ頭部加水分解物群でIL-6、TNFαなどの炎症性サイトカインの発現が抑制された

図1.大腸炎モデルマウスへの抗炎症作用.

まとめ

サケ頭部加水分解物はDSS誘発大腸炎モデルマウスに対して高い抗炎症作用を示した
 →健康増進のための栄養補助食品として期待できる

<参考文献>

1) Daskalaki, M. G., Axarlis, K., Aspevik, T., Orfanakis, M., Kolliniati, O., Lapi, I. Tzardi, M., Dermitzaki, E. Venihaki, M., Kousoulaki, K., Tsatsanis, C. Fish sidestream-derived protein hydrolysates suppress DSS-induced colitis by modulating intestinal inflammation in mice. Marine drugs 19.6 (2021): 312.
https://doi.org/10.3390/md19060312

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