お魚たんぱく健康だより 疲労発生メカニズムと生体酸化の抑制
2025.05.29
今回は疲労が発生するメカニズムについて紹介する。
抗疲労効果を有する成分
抗疲労効果を示す成分としてアンセリン、カルノシン、バレニンなどのイミダゾールペプチドがよく知られており、魚介類ではマグロやカツオなど回遊魚にアンセリン、ウナギにカルノシン、クジラやアカマンボウにバレニンが多く含まれている1-3)。他にも魚肉の加水分解物である魚肉ペプチドも抗疲労効果を示す4,5)。これらのペプチドはいずれも高い抗酸化活性を有することも特徴である。
疲労と疲労感
日本疲労学会の「抗疲労臨床評価ガイドライン」6)によると疲労は「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態」と定義されている。また、「疲労」は心身への過負荷により生じた活動能力の低下を言い、「疲労感」は疲労が存在することを自覚する感覚で多くの場合不快感と活動意欲の低下が認められる、と「疲労」と「疲労感」は区別して考えられている。疲労は過剰な活動から体を守るためのアラームとも考えられ、健康を維持するための重要な生体反応である。
疲労発生メカニズム
疲労発生のメカニズムは精神性、運動性、感染性疲労のいずれにおいても筋肉細胞、神経細胞の過活動による生体酸化が引き金となるとされている6-8)(図1)。

何らかのストレスにより活性酸素が過剰に産生され、酸素ラジカルの還元処理が追い付かなくなると、細胞および関連物質にダメージが生じて細胞機能が低下し、急性疲労が起こる。その後、十分なエネルギー供給があれば徐々に細胞が修復され回復するが、そうでない場合は慢性的に炎症性サイトカインが放出され、倦怠感や疼痛、意欲低下、微熱などの症状につながり慢性疲労が起こる。つまり、疲労感を軽減させるためには酸化を抑制することと十分な栄養素を摂ることが重要だと言える。イミダゾールペプチドや魚肉ペプチドは過剰な活性酸素を除去することで抗疲労効果を発揮していると推測される。
メカニズムを理解し、疲労とうまく付き合っていくことは心身ともに健康的な生活を送る上で重要である。また、アスリートのパフォーマンス向上のためにも疲労感をコントロールし、スタミナを維持することは大切だと考えられる。これら健康維持、身体パフォーマンス向上に魚介類由来の成分も貢献することを期待したい。
<参考文献>
1) 上野友哉, & 山田潤. 海洋性アンセリンの健康機能. 日本食生活学会誌, 25(3), 157-160 (2014)..
https://doi.org/10.2740/jisdh.25.157
2) 清水惠一郎, 福田正博, & 山本晴章.イミダゾールジペプチド配合飲料の日常的な作業のなかで疲労を自覚している健常者に対する継続摂取による有用性. 薬理と治療, 37(3), 255-263 (2009).
https://imida.jp/docs/research01.pdf
3) 畑中寛.鯨肉に含まれるバレニンについて. 鯨研通信, 429, 1-4 (2006).
https://www.icrwhale.org/pdf/09-A-3.pdf
4) Sakai, H. Effects of Fish Meat—derived Peptides on Fatigue. 薬理と治療, 48(8), 1393-1399 (2020).
http://www.pieronline.jp/content/article/0386-3603/48080/1393
5) お魚たんぱく健康研究会HP.お魚たんぱく健康だより 注目の機能性.魚肉ペプチドの抗疲労効果.
https://www.fishprotein.net/letter/f0005/
6) 日本疲労学会.抗疲労臨床評価ガイドライン. (2008).
https://j-fatigue.jp/wp-content/uploads/2024/02/guideline.pdf
7) 渡辺恭良.疲労の科学・脳科学と抗疲労製品の開発. 日本生物学的精神医学会誌, 24(4), 200-210 (2013).
https://doi.org/10.11249/jsbpjjpp.24.4_200
8) 下村吉治.運動におけるコンディショニングのための栄養-運動による疲労の予防・回復のために-: Otsuka & NSCA Japan Sports Nutrition Academy. Strength & conditioning journal: 日本ストレングス & コンディショニング協会機関誌, 28(3), 14-17 (2021).
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