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お魚たんぱく健康だより ラット母親の低タンパク質摂取はその胎児が成長したときの骨格筋タンパク質合成量を減少させる

2022.10.27

妊娠中あるいは乳児期の母親のタンパク質摂取量が、こどもの筋肉量に影響を及ぼすことが分かってきました。その論文内容をご紹介いたします。

概要

  • 妊娠中あるいは乳児期の母親のタンパク質摂取量が少ないと子供の筋肉量が少なくなる。
  • タンパク質合成やアミノ酸吸収などインスリンが関与する代謝経路に影響が及んでいることが示された。
  • この影響は遺伝子配列の変化を伴わず、遺伝子発現が制御される仕組み(エピジェネティック)によるものと推測されている。
  • エピジェネティック作用の一例として、親への給餌量を減らす(カロリー制限)と子供の寿命が延びるということがワムシで知られている。

解説

妊娠中あるいは乳児期の母親のタンパク質の摂取が低いと(8%カゼイン)、離乳期以降に通常の食事を与えても子供の筋肉量は通常のタンパク質(20%カゼイン)を与えた母親からの個体に比べて18%も少なく、また、筋力も前者で低い傾向にあることが報告された(図1)

カゼインは乳タンパク質の約80%を占めており、頻繁にタンパク質の栄養実験に用いられている理想的な高栄養価のモデルタンパク質である。対象となった筋肉はふくらはぎの裏側のヒラメ筋と呼ばれる遅筋である。その原因を調べるために同筋を用いていくつかの生化学的実験を行ったところ、タンパク質合成やアミノ酸吸収に及ぼすインスリン投与の効果が低く、インスリンが関係する代謝経路に影響が及んでいることが示された。この影響は、母親の染色体のDNAやヒストンへの化学修飾を通して、DNAの塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現が制御される仕組み(エピジェネティック)によるものであることが推測されている。ところで親への給餌量を減らすことで(カロリー制限)その子供の寿命が延びることをワムシで明らかにされている2)。この現象にはカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼなどの抗酸化酵素が関わっていることが明らかになっているが、このときにもエピジェネティック作用が寄与していると思われる。いずれにせよ、母親の栄養補給の有無は生まれてくる子供の成長や寿命に大きな影響を与えることは間違いないようである。

<参考文献>

1) Diogo Antonio Alves de Vasconcelos, Renato Tadeu Nachbar, Carlos Hermano Pinheiro, Cátia Lira do Amaral, Amanda Rabello Crisma, Kaio Fernando Vitzel, Phablo Abreu, Maria Isabel Alonso-Vale, Andressa Bolsoni Lopes, Adriano Bento-Santos, Filippe Falcão-Tebas, David Filipe de Santana, Elizabeth do Nascimento, Rui Curi, Tania Cristina Pithon-Curi, Sandro Massao Hirabara, and Carol Góis Leandro: Maternal low-protein diet reduces skeletal muscle protein synthesis and mass via Akt-mTOR pathway in adult rats. Frontier in Nutrition, 9:947458 (2022).
2) Gen Kaneko, Tatsuki Yoshinaga, Yoshiko Yanagawa, Yori Ozaki, Katsumi Tsukamoto, and Shugo Watabe: Calorie restriction-induced maternal longevity is transmitted to their daughters in a rotifer. Functional Ecology, 25, 209-216 (2011).

編者;渡部終五

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