お魚たんぱく健康だより ウナギの骨由来ペプチドのACE阻害活性
2025.10.14
今回はウナギの骨由来ペプチドのACE阻害活性について調べた文献を紹介します。
背景および目的
ウナギの骨はいわゆる加工副産物で蒲焼などの加工品を作る際に取り除かれる部位です。現状では飼料以外に有用な用途があまり見つかっておらず、廃棄されているのものも多いと言われています。ウナギの骨には、タンパク質が約13.25%、脂質が19.18%、灰分が5.63%、水分が56.96%含まれており、何らかの活用方法があるのではないかと考えられてきました。これまでの研究では、ウナギの加工副産物から抗酸化ペプチドや抗菌ペプチド、カルシウムキレートペプチドなどいくつかの有用な成分が発見されており、棄てられているものの有効活用法として期待されています。本研究では、新たな活用法として血圧上昇抑制効果をもつ成分が調べられました1)。
方法
●加水分解:ウナギの骨由来コラーゲンを5種類の酵素(アルカラーゼ、トリプシン、プロタメックス、パパイン、ペプシン)で分解。温度、pHはそれぞれの酵素の至適条件に合わせて5,000 U/gで4時間加水分解。
●ACE阻害活性ペプチドの分画:アルカラーゼ分解産物が最も高い活性を示したため、1 k Daおよび3 k Daの限外ろ過膜を用いて3つの画分に分離。
●ペプチド解析:最も活性の高かった分子量1 kDa–3 kDaの画分中のペプチドをナノHPLCとQ-Exactive Plus質量分析計(nano-HPLC-MS/MS)を用いて解析
●高活性ペプチドの絞り込み:配列が明らかにされた615種のペプチドを生物活性予測プログラムであるPeptide Ranker(http://distilldeep.ucd.ie/PeptideRanker/)で解析し、一次スクリーニング。候補として抽出された67種のペプチドをPepSite2プログラムで二次スクリーニングし、23種のペプチドを特定。この23種のペプチドをAutoDock Vinaを用いて分子ドッキング解析を実施。最終的に選抜された高活性ACE阻害ペプチドを合成し、以降に実験に用いた。
●評価系:ACE阻害活性、相互作用解析、血管機能への影響(一酸化窒素(NO)、エンドセリン-1(ET-1))
結果
●高活性画分の分画後、ペプチドミクス、分子ドッキング手法を用いて最終的に7種類の新規ACE阻害ペプチドが特定され、合成された(PMGPR, GPMGPR, GPAGPR, GPPGPPGL, GGPGPSGPR, GPIGPPGPR, GPSGAPGPR)。
●同定されたペプチドの中でGPPGPPGLが最もACE阻害活性が高く、そのIC50は535.84 μMであった。
●GPPGPPGLはACEと安定したドッキング構造を形成し、結合エネルギーは-8.4 kcal/molであった。
●GPPGPPGLは、血管拡張因子であるNOの分泌を有意に増加させた。
●GPPGPPGLは、血管収縮因子であるET-1の産生を有意に減少させた。

今回同定されたウナギの骨由来ペプチドはACEの作用を阻害するだけでなく、血管を拡張させることで血圧上昇抑制作用を示すと推測されました。生体内での作用を確認する必要は残されていますが、加工副産物から有用な物質が発見されるのは素晴らしいことですね。今後の展開にも期待したいです。
※血圧とACEの関係性についてはこちらもご参照ください。
<参考文献>
1) Xiang, Huan, et al. Angiotensin-I-converting enzyme inhibitory peptides from eel (Anguilla japonica) bone collagen: preparation, identification, molecular docking, and protective function on HUVECs. Frontiers in Nutrition 11 (2024): 1462656.
https://doi.org/10.3389/fnut.2024.1462656
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