魚は地上を歩かないから腱や筋が少ない
2025.04.15
ここでは腱や筋の構成成分であるコラーゲンの性質について解説する。
魚類コラーゲンの柔軟性と消化性
別の項目で筋肉の構成タンパク質であるミオシンの構造の柔軟性や変性のしやすさ、消化性との関連について解説してきたが1,2)、ミオシン以外のタンパク質についても紹介する。例えば、筋肉中の筋隔膜や腱などの結合組織に存在するタンパク質のほとんどはコラーゲンであるが、このタンパク質は加熱すると変性してゼラチンになる。魚類コラーゲンの熱変性温度は哺乳類のそれより低い値を示すことが知られており3)、魚類の中では生息水温の低いものほど熱変性温度は低い値を示す。すなわち、タンパク質の構造が柔軟であることが推測され、ミオシンと同じようにプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)による分解を受けやすく、消化性が高いと考えられる。
コラーゲン量とテクスチャー
魚肉中のコラーゲン量は生肉のテクスチャーの発現に関連している4)。魚肉(普通肉)ではコラーゲンを含む筋基質タンパク質量は数%に過ぎないが、哺乳類では10%を超える(図1)5)。その理由は、魚類は比重が大きく浮力が働く水界に生息しており、陸上の哺乳類のような浮力のない空気中で重力に抗って運動する必要がないためと考えられる。

参考資料5) Suzuki, T., & Watabe, S. New processing technology of small pelagic fish protein. Food Reviews International, 2(3), 271-307 (1986).のデータを基にグラフを作成.
ただし例外もある。サザエやアワビの筋肉はコラーゲン含量が極めて高い6)。これは、これら生物が前後左右に自由に移動できるための蠕動運動を行うため、コラーゲン線維が筋肉中に縦横に張り巡らされているためである。ただし、加熱するとコラーゲンは変性するため、サザエやアワビの筋肉のテクスチャーは大きく低下する。一方、魚肉では加熱によってむしろテクスチャーは増大する。これはコラーゲン以外のミオシンなどの主要な筋肉タンパク質が加熱凝固するためである。
哺乳類のコラーゲンと比較した時の魚類コラーゲンの分解されやすさと含有量の違いが魚肉の消化性に大きく関わっていると考えられる。しかし、タンパク質の変性と消化性の関係については種々の議論があり、その様式によっては先述のようにコラーゲン以外のタンパク質が不可逆的に凝集して消化を受けにくくなることも考えられるので注意が必要である。
<参考資料>
1)お魚たんぱく健康研究会HP.お魚たんぱく健康だより お魚トピックス.魚肉ミオシンの消化性と機能性発揮の機構.
https://www.fishprotein.net/letter/t0012/
2)お魚たんぱく健康研究会HP.重点研究テーマ 魚の消化性のすばらしさ.魚は体温が低いからタンパク質が分解されやすい.
https://www.fishprotein.net/priority_research/d0012/
3)木村茂.海洋性コラーゲンを探る. 株式会社五曜書房, 東京, 167, (2014).
https://cir.nii.ac.jp/crid/1130000796180864384
4)畑江敬子, 飛松聡子, 竹山まゆみ, & 松本重一郎. 魚肉の物性とその魚種差に対する結合組織の寄与. 日本水産学会誌, 52(11), 2001-2007 (1986).
https://doi.org/10.2331/suisan.52.2001
5)Suzuki, T., & Watabe, S. New processing technology of small pelagic fish protein. Food Reviews International, 2(3), 271-307 (1986).
https://doi.org/10.1080/87559128609540801
6)渡部終五.2.タンパク質. 水産利用化学(鴻巣章二・橋本周久編). 恒星社厚生閣, 東京, pp. 40-74 (1992).
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